「どうしてロトルアに住もうと決めたのですか?」……よく聞かれる質問。

 ポールの実家はオークランドのノースショア市カスターベイにあって、ロトルアには誰も知り合いは無かった。ポールの生まれた所はウェリントンの近くのローアーハットという所で、高校時代もウェリントンの「名門」寄宿校で過ごした。両親(主にセールスマンをしていた父)の仕事の転勤で、北島も南島もいろんな町で過ごした経験があるそうだけど、ロトルアに住んだことはない。私たちにとって、ロトルアは縁もゆかりもない土地だった。

 長崎でポールと(出会うはずもなく)出会って、それから1年後に"とりあえず”一緒に暮らすことに決めた時も、私の中では「フラ〜ッと日本に来た彼だから、またいつかはフラ〜ッとどこかへ行きたくなるだろう。その時まで、お互いにいい影響を分ち合っていければいいかな」という風に思っていた。だから、ず〜〜〜〜っと確たる「結婚生活」が続くだろうとは、自分たち自身考えていなかった(ポールは果たしてどう思っていたのか?)。

 「もしかしてずっと別れないでいて、いつかNZに住む時が来たら…」
 この仮定形が、私たちの常套文句だった。そう、あくまでも、「もしかして…」。
 ・・・もしかして、その時が来たら・・・
 「田舎でいいから家を1軒買って、2部屋・5人くらいまで泊まれて、美味しい料理を食べてもらって、ゆっくり過ごしてもらえる小さなB&Bを開きたいな」それがポールの口癖の夢だった。オーストラリアのシドニーでシェフをしていたポールは、長崎に来てからは英語講師をしていて(大学での専攻は英文学)、教えることは大好きだけど、やっぱり一番好きなのは料理。
 ポールと私の共通点=絵を描くことも、クラフト作品を創ることも、詩や文章を書くことも好き。旅行も温泉も好き。そして、ガーデニングも好き。(私が就きたかった職業の1つは、ランドスケープ・デザイナー/庭師!)
 こんな2人だから、自分たちのDIYで家や庭を整備して、オーガニック栽培の新鮮な野菜や果物を使った料理を楽しんでもらえるB&B(民宿)は、向いているかも…やっていけるかも、ね。
 「その時が来たらね……」 
 ほんとに「その時」が来るのかな?
 ポールにとっては漠然とした夢で、私にとってはあまりにも不確かな仮定。 

   長崎の家で—ポールとジェイク
 一緒に暮らして8年くらい過ぎた頃から、NZ移住は現実味のある目標として再浮上してきた。日本でポールが永住権を取れたとしても、実質的な権利は何もなく、1年更新の時間講師という立場は不安定で、健康保険や年金のことを考えても不安だらけ。何よりも彼の居場所や生き甲斐を考えれば、やはり、彼の基本的な生活権利が保障されるNZに住む以外に無い……決定的な移住決断の理由はこの点だった。
 「じゃあ、私の仕事の区切りがついたらね」
 ポールの生まれ育った国に移住すると言っても、仕事も収入もないゼロからスタートするのだから、食べていけるという保証はなく、将来どうやって暮らしていけるかもわからないから、私の年金の資格だけは確保していかなければ、というのが1つ。自分たちが立ち上げた言葉の学習の研究会や和太鼓チームのことなど、移住後もその仲間の皆が続けていけるように数年かけて準備していかなければならないことも諸々あった。
 「2005年に移住」と決めて、その5年くらい前からNZ暮らしのためのリサーチと日本での活動整理の準備を始めた。

 さて、やっと最初の「なぜ、ロトルア?」に話がつながってくる。
 B&Bをして暮らしていくのに、どこを拠点にするのがいいかな?
 1〜2年に1回ポールの実家に「里帰り」する度に、北島中を車で廻り、いろんな所をリサーチした。日本発行の旅行ガイドブックに載らない場所も含めて、けっこう津々浦々走り回ったけど、落ち着く場所は、オークランドから車で3〜4時間で行ける範囲と定めていた。旅行者がオークランドにまず入国して,そこから移動しやすい距離。ポールの両親に何かあった時に、車で半日で行ける距離、それも理由だった。
     タラウェラ湖
 候補に挙げていたのは、コロマンデル半島ウィティアンガ周辺、オークランドから北に1時間のファンガパラオア半島、オークランドから北西に30〜40分のクメウからヘレンズヴィルの辺り。ケリケリも大好きな町だけど、オークランドから5時間は遠過ぎる。ロトルアは全く視野の外…というより、あえて外していた。

 観光地としてでき上がった所より、日本人にはあまり知られていない魅力を自分たちで情報発信できる所がいいな、と思っていた。観光地ズレした所は嫌だな、とも思っていた。
 ロトルアは、旅行者として訪れた時のイメージで、「温泉観光地」。温泉は日本人には魅力だとしても日本のような満足感のあるものではないし、街中の雰囲気そのものも、1泊で通り過ぎていく旅行者の私たちにとってはそれほどの魅力はかんじられず、「ふ〜ん」って感じだったのだ。 

 ・・・それが、どこでターニング・ポイントを迎えたのか? 
 移住2年前に、ほぼファンガパラオア半島にと決めていたのに、当時のNZの不動産バブルで、オークランドはもちろん、その周辺もクレイジーな価格高騰が続き、とても私たちには手が出せなくなってしまった。これは無理と判断して、 視点を変えて、また様々な場所をリサーチするために走り回るうち、北島の中央部に位置するロトルアを何度も通り過ぎることになる。
 「ロトルアって、こうしてみると、北島中央部のどこに行くにも、すごく便利なロケーションなんだな〜」
 感心しながら地図を眺める。ちなみに、私は地図を読むのが大好き。「女は地図が読めない」と言った戯け者がいたっけ。 知らない土地でも地図があればナビできる!(今はGPSがあるから、その役目もほとんどしなくなったけど)

     1-7夜明けカヤック:リターン
 改めて地図を見ると、ロトルアはやたらに湖が多い。森も川も多い。車で1時間走れば海にも出る。現地の何かのパンフレットを見て知った「ロトルアって主な湖だけで14もあるんだって!」“主な”ということは、 小さい湖、個人所有の農地にある湖まで入れると数しれず。
 事実、ロトルアはNZのレイクス・ディストリクト=湖水地方。 
 そして、もちろんロトルアからタウポまでのエリアはNZ最大の地熱地帯。温泉も含め、迫力あふれる大地のエネルギー と自然の驚異にふれられる。
 この大自然こそがロトルアの魅力。そして、自然を遊び倒すことかけて天才のNZ人たちが、ロトルアのあちこちに展開するアウトドアやアクティビティの数々。ここ1カ所で遊べるバラエティの豊富さから、NZでは「ロトべガス」と呼ばれている。
 ロトルアは先住民マオリの人口比率が特に多く、マオリ文化の濃い所でもある。観光用のマオリショー以外にも、伝説にかかわるスポットがあちこちにある。
 こういうことを「発見」した時点で、「ロトルアって、すごく、いいかも」
 いや、断然、ロトルアがいい!
 こんな魅力を紹介したい。
 点から点へ慌ただしく移動する旅行ではなく、様々な場所へ日帰りで行けるロトルアだからこそ、ここに連泊でゆっくり滞在、そしてNZらしい自然もマオリ文化にもふれ、アクティビティも体験してもらうホリデイの提案……それは、「自分たちらしい情報発信」という外せない立脚点にピッタリだった。

 こうして、移住1年前には、「ロトルアに住む」ことを決めていた。
        IMG_0212

 “ロトルアン”になって9年。
 ロトルアは住みやすい。程よく田舎で、ほどよく活気があって、生活に必要な物はすべてある。
 変化に富む自然が素晴らしい。ゲストを案内して、同じ場所に数えきれないくらい行っても、決して見飽きることがなく、自分自身、毎回感動する。 
 乗馬もカヤックも身近な所でできる。この2つは、年をとっていってもいつまでも続けたい。

 ロトルアに住む理由……今や、ロトルアから離れたくない理由。
 縁もゆかりもなかった土地。ポールも私も、ロトルアがこよなく好き。