ニュージーランドで住む家を選ぶのに、賃貸で住むか、持ち家を購入するか,その手続きは大違い。
 家を買うのは大きな大きな買物だから、日本でもどこの国でも簡単ではないけど、日本の場合は不動産さんがお金のやり取り以外のほとんど全部やってくれる。NZの場合は、不動産エージェントは物件を紹介するだけという場合が多く、全ての手続きは買い手も売り手もそれぞれの弁護士を通じてのやり取りになる。
 その購入の手続きが複雑・面倒で時間もかかるので、私たちのNZ暮らしはレンタルでスタートした。なにしろ、長崎の家から家具・家電一式、50箱分の本、和太鼓類(大胴3、締め太鼓2 その他。最初からNZで和太鼓チームを作るつもりで来たので)などを、コンテナ1個貸切りの海外引っ越し荷物で送り出し、それが1ヶ月半くらいで到着するので、取りあえず住む場所を決めて、その荷物の落ち着き先を運送業者に知らせないといけなかった。
 
 2005年6月4日に入国して、オークランドのポールの実家に1ヶ月くらい居候しながら私の永住権申請の準備。併行して、家探しのために1週間ロトルアに出かけ、モーテル泊まりで家探しに集中。実際には前半の3日間で家を決定し、後半の3日間はロトルアの住環境などのリサーチで過ごした。
 1週間の予約より1日早く切り上げてオークランドに戻ることにしたが、泊まったモーテルのオーナー、ピーターさんはキャンセル・チャージも取らず、家探しの成功を一緒に喜んでくれた。
 ロトルアに移ったあと、ポールのNZでの運転免許取得のために、「実技テストには2年以上経験のあるNZの運転免許保持者が同行しないといけない」という厳密な規則があって、ロトルアでの知り合いが誰も無かった私たちは、ダメもとでピーターさんに頼んでみた。すると快く引き受けてくれたのだった。(ポールの運転免許はオーストラリアと日本、それに日本でとった国際免許。オーストラリアのはすでに失効していて、当時は日本の運転免許のNZへの自動書き換え制度がなかった)

 3日間で24件のレンタル・ハウスを見て回った。思い返しても、すごい集中行動。
 レンタル物件の場合、不動産屋のレンタル部門のオフィスに行って、テナント希望登録の書類に記入し、住みたい家の条件を伝え、該当する物件のリストをもらう。私たちの場合、3〜4ベッドルーム、2バスルーム、ガレージ(できればダブル)が必須条件。リストにある住所を見て、まず自分たちで外見や環境などを見に行く。そこで、良さそうだなと判断して内部を見たい場合に、オフィスに戻って内部を見せてもらう予約をとる。
 ロトルア市内にあるほとんど全ての不動産屋を廻って、リストをもらった。
 湖に近いけど古くてボロい……3ベッドルームとあるけど狭そう……家そのものは良さそうだけど、周りの環境が疑問……なかなか適当な物件が無い。
 24件のうち、中を見せてもらうのを3件に絞った。

  ロトエフ湖
 1件目はリストの最後の最後にあった物件で、ロトルア市内地図で住所を探しても見つからない。「これ、どこ?」とエージェントに聞いたら、オフィスに貼ってある地図の外の壁を指して「この辺り」……え〜っ それって、どのくらい遠いんだろ? 24件の中には、ロトルアに隣接するノンゴタハやママクの物件もあって、そこも出かけてみたので、ロトルア中心部から車で30分くらいなら、まずは見に行ってみようと決めた。
   
  湖水地方ロトルアの湖群の中でも、東西に、ロトルア湖・ロトイチ湖・ロトエフ湖・ロトマ湖と大きな湖が4つ並ぶ。その3つ目のロトエフ湖のほとりに、その家はあった。30号線からちょっと入り込んだポケットのように数件の家があって、羊牧場の丘陵や森のような木立に囲まれ、湖畔まで徒歩30秒。2階建てで、2階部分をグルリと囲むウッドデッキがあり、そこから覗けるキッチンは今まで見た中でベスト。この家に“一目惚れ”だった。
 「ロトルアまで遠いよ」「でも、家は申し分無いよね」「この距離、大丈夫?」「ゲストに泊まってもらったり、ガイドツアーするのに、ロトルア市内まで遠いけど、この環境と自然がいかにもNZらしくて、きっと満足してもらえるんじゃないかな」「うん、ここに住みたい!」
 ロトルアからこのロトエフ湖までの30分、3つの湖や森の中を通る、それはそれは美しいドライブ・ルート。
 2件目を見に行く前に、ポールも私も、心の中は強くロトエフに惹かれていた。
  ロトエフ亭

 2件目はロトルア市内。レンタル料は3件の中で一番安く、場所も便利。袋小路になった住宅地で静かだし、家そのものはまあまあだったけど、近所に廃車が乗り捨ててあったりして、ちょっと隣人の環境に疑問有り。
 もう1組、マオリの若いカップルが見に来ていて、とても気に入ったらしく、私たちもこの家をレンタル希望するかとしきりに気にしているようだった。レンタルの場合、気に入ったら即決しないと、いい物件はすぐに他のテナントが決まる。複数の希望者がいる場合は、家のオーナーにテナントを選ぶ権利があるので、希望者リストに登録して決定待ちとなる。オーナーとしては良いテナントに住んで欲しいから、収入その他の条件を見て選ぶ。そういう点では、どうしてもマオリよりパキハ(=白人系)や日本人に分がある(NZでは「日本人は奇麗好き」という評価があるので、テナントとして好まれる)。マオリのカップルが心配したのも無理はない。
 誤解がないように言っておくが、マオリ全てが貧しく、荒れている訳ではない。すごくリッチなマオリもたくさんいるし、ロトルアでも勤勉なマオリ、才能あるマオリ、素晴らしいマオリの人たちも多い。ただ、全体的に比べれば、パキハ・アジア系よりマオリ・アイランダー系(ポリネシアの国々からの移民)がより所得の低い層に位置する。ポリネシア系のザ〜ッとした民族性は、おおらかで好ましい点もあるけど、几帳面さではとても日本人の比では無い。
 話を例のカップルにもどそう。
 私たちは、この2件目の内見をした時点で、ロトエフ湖の家への思いがますます膨らんでいたので、ポールと目を合わせて「決定だね」。
 その時、マオリ・カップルのうち“お兄さん”が、「この家どう思う?」と声かけてきた。「僕たちはここの前にもう1件見て来たんで、そっちに決めるよ」とポールが言ったら、彼の顔がパッと明るくなって「ありがとう、ありがとう!」と繰り返した。
 「これからオフィスに戻るの?」と聞いたら、「うん、すぐに手続きするよ。ボクはしばらく他の土地に働きにいってたんだけど、またロトルアに戻って、待っていてくれた彼女と一緒の生活を始めるんだ。彼女、この家が気に入っててね。ホントに嬉しいよ」
 「Good Luck !」「You too !」
 私たちも嬉しかった。彼らの門出に祝福!
   ロトエフ亭の庭から

 3件目はロトルア市内の中でも人気の高い住宅地スプリングス・フィールド にあり、3件の中でもレンタル料が一番高かった。後から振り返ると、ロトエフ〜市内のガソリン代などのコストも考慮すると、高い賃貸料でもリビングコスト的にはどちらが得だったのかわからないな、とも思う。
 私は一応3件目も見てから最終決断したかったけど、ポールの心は完全にロトエフ湖の家に向いていて、「見るだけムダだよ」
 3件目の内見予約をキャンセルして、1件目のエージェントに連絡を取り、その足でまたロトエフ湖へ。その日のうちにボンド(敷金・頭金など)も支払い、レンタル手続きを完了した。 

 住む場所が決まった!
 数限りなく乗り越えていかなければならないNZライフの、1つ1つのステップ。
 まず、1段階クリア。