ニュージーランドで盛んのスポーツと言えば、ラグビーとクリケット。日本では、ラグビーはサッカーに比べてメジャーではないので「ルールがわからない」という人も多い。でも、NZの国代表チーム「オール・ブラックス」や試合前のハカ(闘いの踊り)は有名。
 クリケットに至っては、日本では、ほとんど目にする機会も耳にする機会もないのでは?
 そのクリケットで、今、NZ中が燃えている。ワールドカップの決勝にNZ「ブラック・キャップス」(国代表チームのニックネーム)が初の進出を決め、今日メルボルンでオーストラリアと対決するのだ。決勝会場はメルボルンだが、このワールドカップはNZ・オーストラリアが共同開催地。地元の大会で、初の決勝。しかも、世界ランキングでは格差のある優勝候補NO.1・強敵オーストラリアに立ち向かう。この大会で予選プールからNZは唯一全勝しているチームでもある。悲願の優勝なるか!?
 
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 私は高校生の時からラグビー大好き人間で、NZライフのメリットの一つは何といっても世界トップレベルのラグビーの試合をしょっちゅうTV観戦できるし、時には生の試合観戦もできるということ。
 クリケットについては、そういうスポーツがあるということを知っていたが、約10年前に NZ移住するまでは、ふれる機会はもちろんなかった。ポールと暮らし始めて、長崎大学の留学生センターの隣りのアパートに住んでいた頃、インド人やパキスタン人留学生たちが、「クリケットをやってるけど、来ないかい?」と、しばしばポールを誘っていたが、結局参加する機会がなかった。

  NZに移住して、クリケットの試合があれば延々とTVをつけて観ているポールに、「ルールを説明して」と頼んだら、「説明不可能。ルールが複雑すぎて、クリケット文化で育たない限り、理解できないよ」と言われた。そういう説明を面倒がる人間なら仕方ないが、ポールは私が何を聞いても、ちゃんとわかりやすく説明してくれる。それが、クリケットに関しては一発却下! う~ん、クリケット文化圏以外の人間には入り込めない世界なのか~。クリケット文化圏というのは、イギリス連邦下の国々ということ。ラグビーもそうだが、クリケットは特にまた別の文化圏があるらしい。
 
 「理解不可能」と言われたクリケットのルールが、しかし、私はわかるようになったのだ! ポールのTV観戦につきあって、ず~~~~っと観てるうちに、ほとんどのルールが分かってきた。そして、クリケット観戦で燃えるポイントも完全にわかってきた。これって、すごいよね。

 2011年のラグビーWカップがNZで開催された時、全然ラグビー・ファンじゃなかった周りの日本人の友人たちも、熱い空気とイベント・センターなどで住民がワイワイ集まって愉しんで観る雰囲気の中で、ラグビーのおもしろさが分かってきたという人たちも多い。
 クリケットでも同じ現象が起きるだろうか?
 ラグビーより難しそうだけど、このブラックキャップスの大活躍がクリケット・フィーバーの何らかの起爆剤になる可能性はある。
 そこで、全くクリケットの知識が無かった私が、どのようにこのスポーツを理解したか……を述べてみたい。詳しい人が解説するより、ド素人の視点からの理解の方が役に立つかも。
 
 「野球の先祖」と言われるクリケット。確かに似ている点もあるが、違う点も多い。 
  テストマッチと呼ばれる正式の国際試合は、1試合に5日間かかる。ユニフォームは、ウィンブルドンのテニスと同じで、どのチームも白のみ。
 テストマッチを簡略化した1日試合=ワン・デイ・マッチ One Day Match の方が分かりやすいし、ユニフォームもカラフル。ワールドカップもこの方式で行なわれるので、ここではそのルールの主なものと観戦のポイントを紹介する。

 クリケットのフィールドは楕円形。中央に直線の芝の無い部分が有り、その両側にそれぞれ棒が3本立ち、その間にバーが2本乗っている。これをウィケットと呼ぶ。ウィケットはボールが触れるとバシッと落ちるように軽く乗っているだけ。ウィケットの前にバッターがそれぞれ1人ずつ立つ。バッターは2人1組でプレーし、1人が相手チームのボーラー(野球のピッチャー)が投げた球を打ったら、2人同時に走って、直線上を入れ替わる(向こうのウィケット前の白線を越えるまで走る)。2人とも反対側の白線を越えた時点で1点(クリケットでは得点を1ランと数える)。野球のダイヤモンドと違って直線上を往復する。2人が往復したら2ラン、もう1回入れ替わったら3ラン。楕円形のフィールドの周りにロープがぐるりを置かれ、打ったボールがそこまで達したら自動的に4ラン、4点打のことを「バウンダリー」(境界打)と呼ぶ。その境界を越えたら6ラン、これが野球のホームランに当たる。

 クリケットで一番重要なのが「ウィケット」。これは、いわば「砦」。ボーラーは砦を落とそうとしてボールを投げてくるのだ。 野球では打つ方が攻撃、フィールドを守る方が守備となるが、クリケットではむしろボーラーのチームの方が砦を攻略し、バッターのチームの方が砦を守る、というイメージ。私がそう説明すると、たいていの日本人ゲストの皆さんの顔がパッと輝いて「あ、そうか、そういう風に見るとわかりやすいな~!」と言われる。
 ウィケットが落ちたら、そのバッターはアウト。クリケットではアウトのことをウィケットと言い、後何人のバッターが生き残っているかを「◯本のウィケットが手中にある」と表現する。 バッターが10人アウトになったら、そのチームの打撃が終了。10ウィケットになるまでに何点のランを積み重ねられるかが打撃側の攻め。

 では、どういう場合にアウトになるのか。これが何通りもあって、クリケットのルールの分かりにくさの要因。
 簡単に言ってしまえば、ウィケットが落ちたらバッターの負け(=アウト)。空振りしたボールでも、自分が打ってチップしたボールでも、ゴロを打って走ったが守備が取って投げたボールがバッターより先にウィケットに当たって落とした場合も。
 打ったボールを直接キャッチされた場合も、もちろんアウト。守備の側は、ウィケット・キーパー(キャッチャーに当たる)以外はグローブを付けず素手でキャッチする。これが凄い。
 スゴく複雑なケースとして、バッターの身体の一部に当たって遮られたボールが、本来ならウィケットを落とす軌道で投げられていた場合も、アウト。この判断はレフェリーがするが、微妙な場合は音の振動波とコンピューターで軌道表示してモニター・ジャッジすることも多い。
 野球と違って、バッターは360度どこに打ってもいい(ファウルがない)、ゴロを打っても守備からすぐに球が返ってきそうなら走らなくていい。だから、なかなかアウトにならない。クリケットの試合時間が延々とかかるのはそういうわけ。
 アウト=ウィケットを取るというのは、クリケットでは大興奮の瞬間。ボーラーと守備陣がウィケットの度に、それで試合に勝ったかのように毎回雄叫びを上げ、跳び上がり、抱き合って喜ぶ。
  
 野球では3人のバッターがアウトになる度に攻守交代するが、クリケットでは延々と片方のチームの打撃が続き、10ウィケットになった所で攻守交代。10人アウトになる時点でバッターは2人1組なので、チームは11人。フィールダーの方もボーラーとウィケット・キーパー(野球のキャッチャー)の他に9人で合計11人。

 ファウルも無く、三振もなく、ゴロで走らなくていいとなると、なかなか試合は終わらない。 そこで、試合時間を短縮して、わかしやすくしたのが1日で終わるワン・デイ・マッチ。この方式では、ボーラーが投げる球数の総数が決まっている。
 1人のボーラーは6球投げたら交替する。この6球を1オーバーと数える。 ワン・デイ・マッチは50オーバーと決まっている。すなわち、全部で300球。
 1人のボーラーが何回登場してもいいが、最大10オーバーまで。速球投手もいるし、変化球投手もいる。ボーラーの交替の指示も, 守備隊形の指示もすべてフィールド内ではキャプテンの役割。クリケットでは、ラグビー以上にキャプテンのリーダーシップが大きい。

 10ウィケットまたは300球になった時点で1チームの打撃が終了する。球数が決まっていないテストマッチと違って、打撃チームはだから、ある程度どんどん打っていかないと、得点が伸びない。だが、打ち急いでフライを上げたり打ち損なうとアウトになりやすい。その兼ね合いと戦略がポイント。打者のオーダーもそれによって組まれる。テストマッチではチームの最強打者は中盤で登場することが多いが、ワン・デイ・マッチでは最初からできるだけ得点を延ばすために序盤からパワー・ヒッターを配置する。NZのキャンプテン, ブレンダン・マッカラム選手は、まさにその例。
 
 TV画面の端に、182-3 または 182/3 というような数字が出る。これは、現在の打撃の得点182ラン, ウィケット(アウト)3人、という意味。
 後攻のチームは先攻チームの得点を追い越せば勝ち。試合終盤で、後何人ウィケットが残っていて、球数の残りが何球で、勝つために必要な得点が何点……というのが表示される。この辺りから、1球ごとに数字との勝負、ギリギリの駆け引き。残っている球数の倍以上の得点を取らないと勝てない……そんな場合でも、4ランや6ランが出れば、グッと可能性が高まる。準決勝のNZ-南アフリカ戦で、もうダメか,とても追いつけないかと思った得点を、NZのヴィットリの4ランで希望を繋ぎ、エリオットの6ランで劇的勝利となった。そんな興奮を体験すると、クリケットの得点ルールが実に巧みにできているのに感嘆する。 

 クリケットは数字と勝負し、一つ一つの記録の積み重ねを讃え合い、かつ頭脳的・精神的な戦略・駆け引きを楽しむスポーツ。一旦ルールがわかれば、戦略分析が好きな日本人が観戦するのに向くスポーツじゃないかなと思う。ただし、1日中ゆったり楽しむ余裕が必要で、時間に終われることに慣れた日本人にはこの点が一番のハードルかな?

 のんびりダラダラしているように見えるクリケットの試合。でも、実際に生観戦を体験したら、ワン・デイ・マッチは、けっこう終始興奮のシーンあり。応援するチームだけでなく、相手チームの一つ一つのいいプレーを讃えたり、バッターやボーラーの記念すべき数字に達したプレーに会場全体で拍手を送ったり……クリケット試合場はすごく温かい雰囲気だった。

 これからも、もっともっとクリケットを観よう!
 
 さて、ここまで記したところで、クリケットWカップ決勝の中継が、まもなく始まる。